Q.団体交渉には誠実交渉義務があると聞きますが,この場合の誠実とはどのようなことをいうのでしょうか?

質問

団体交渉には誠実交渉義務があると聞きますが,この場合の誠実とはどのようなことをいうのでしょうか。労組側の要求を飲むことまで求められるものでしょうか。

また,要求について平行線になった場合,これを打ち切ることは不誠実でしょうか。

 

回答

義務的団交事項について,団体交渉に応じなければならない事項であっても,最終的に労組の要求を飲むことまで求められるものではありません。また,いわゆるデッドロックの状態に陥ってしまったのであれば,これを打ち切ることも許されます。

 

【解説】

団体交渉において,何が誠実交渉かを判断することは難しい問題です。
労組側の求める「誠実」さと企業側が対応すべき「誠実さ」では求めているレベルも違うでしょう。

この問題について,一応の基準を示しているのが「カール・ツァイス事件」(東京地判平成元年9月22日労判548号64頁)という裁判例です。

 

この裁判例では企業側に求められる誠実交渉義務について,以下のように判示しています。

 

「使用者は,自己の主張を相手側が理解し,納得することを目指して,誠意をもって団体交渉に当たらなければならず,労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり,必要な資料を提示するなどし,また,結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても,その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって,合意を求める労働組合の努力に対しては,右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある」

 

「なるほど,使用者の団交応諾義務は,労働組合の要求に対し,これに応じたり譲歩したりする義務まで含むものではないが」

 

「要求に応じられないのであれば,その理由を十分説明し納得が得られるよう努力すべき」

 

しかし,これらの判示は,あくまで一般論としての誠実交渉義務について述べているものであって,ある要求事項について,どのような説明をし,対応をするかはケースバイケースであるといえます。

 

また,団体交渉の行き詰まり=デッドロックですが,議論が平行線に陥ってしまい,それ以上の進展の見込みがなくなってしまったのであれば,これを打ち切ることも許されます

 

ただし,これもどのような交渉をすれば,進展の見込みなしとみてよいかは,要求事項やその後の紛争リスクなどに照らして判断すべきであり,軽々に判断はできません。

 

団交において,どのような対応をすべきか,打ち切るとして,どのような段階で打ち切るべきかは,専門家の意見を仰ぐことをお勧めいたします。

03-3519-3880