雇用契約と業務委託契約について

経営者からのご質問

当社は、運送業を営んでおりますが、残業時間が長くなりすぎたため、運転手の一部に退職してもらい、業務委託契約としました。
①業務委託契約としていても、雇用になってしまうこともあると聞いたのですが、どのような場合にそのようなことになりますか。

②また、雇用と評価された場合のリスクを教えてください。

 

当事務所の回答

1 ①について
労働基準法等の適用がある雇用契約であるか、そのような規制のない業務委託契約であるかは、契約の名称ではなく、「使用従属関係」があるかどうかで決まります。この場合、当該運転手は労働基準法上の労働者になります。実態に何ら変化もなく、雇用であったときのままの状態で契約のみを業務委託契約としても、それは使用従属関係のある労働者であると評価され、残業代支払義務を免れることは出来ない可能性が高いでしょう。
2 ②について
雇用と評価された場合、運転手に支払うのは「賃金」ですので、賃金に関する労基法上の規制があります。また、一定の勤務年数を経た後の年次有給休暇を付与する義務、雇用保険や労災保険に加入する義務が課され、当該運転手との契約解消は解雇となり、解雇権濫用法理によって解雇には客観的合理的理由と社会通念上の相当性が求められることとなります。また、業務委託であれば、受託者が何時間働こうが残業代の問題は生じませんが、雇用となれば法定時間外労働については残業代支払義務が生じます。

 

解説

1 労働基準法上の労働者に当たるか否か

 

(1)労働者性の判断
労働基準法の適用のある労働者か否かは形式的な契約の名称では決まりません。
昭和60年12月19日労働基準法研究報告「労働基準法の「労働者」の判断基準について」(以下「昭和60年判断基準」といいます)によれば、使用従属性の有無は、①「指揮監督下の労働性」と②「報酬の労務対価性」とを基準に判断されます。この2つの基準では判断できない場合、事業者性の有無、専属性の程度等を補充的に考慮し、労働者性を判断することになります。

 ア 指揮監督下の労働性
指揮監督下の労働性は仕事の依頼や業務従事に関する指示等に対する諾否の自由があるか否か、業務遂行上の指揮監督関係があるか否か(業務の内容及び遂行方法に関する指揮命令の有無、勤務場所及び勤務時間の拘束性の有無、労務提供の代替性有無等)に照らして判断することになります。

 

 イ 報酬の労務対価性
報酬の労務対価性は労働の結果に応じた格差の有無、欠勤した場合報酬が控除されるか否か、残業した場合に割増報酬があるか否かで判断されます。結果ではなく、働いたことの対価として報酬を得ていることになれば、報酬の労務対価性が有るといえます。

 

 ウ 具体的な判断方法(平成8年11月28日労判714号14頁・横浜南労基署長(旭紙業)事件)

  (ア) 事案
自己の所有するトラックを旭紙業株式会社の横浜工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、同社の製品の運送業務に従事していた者(以下「本件運転手」といいます、本件運転手は「運送請負」という形式で業務に従事していました)の労働基準法上及び労働者災害補償保険法上の労働者性(両法の労働者性の判断基準は同じ)が問題となった事案です。

  (イ) 裁判所の判断
裁判所は、労働者性を肯定する方向の事実として、同社の本件運転手に対する業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった、勤務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていたことなどといった事実を認定しました。

 

他方で、労働者性を否定する方向の事実として、本件運転手は、専属的に旭紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかった、毎日の始業時刻及び就業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになる等の事実を認定しました。
その上で、「業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、旭紙業は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、本件運転手の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、本件運転手が旭紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、本件運転手が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、本件運転手は、専属的に旭紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び就業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、本件運転手は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しない」と判断し、労働者性を否定しました。

 

  (ウ) 労働者性を検討するにあたっての注意点
上記裁判例を見れば分かるとおり、労働者と言えるためには、指揮監督下の労働性と報酬の労務対価性、事業者性等、全ての考慮要素が認められる必要はありません。裁判例も、「同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び就業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること」と、指揮監督下の労働性を肯定する方向の事実が認定されているにもかかわらず、労働者性が否定されました。
本件の第1審である横浜地判平成5年6月17日・労判643号71頁では、労働者性が肯定されており、同一事案でも判断が分かれています。
そのため、労働者に当たるか否かの判断は、慎重にする必要があります。

 

2 雇用と判断された場合の貴社のリスクとその対策

裁判例のとおり、労働者に当たるか否かについては、様々な考慮要素を総合考慮し判断がされます。また、同一事案でも一審と二審とで判断が分かれることもあるように、予測可能性は高くありません。
労基法上の労働者性が問題になる案件においては、通常、事業主は委託先である「労働者」の労働時間に注意を払わないことがほとんどです。そのため、労働者から自分が労基法上の労働者であると主張され、未払残業代の請求をされた場合、敗訴して労働者性が認められた場合には長時間の労働時間のために多額の残業代を支払わなければならなくなるというリスクがあります。
そのため、業務委託契約を用いるときにはそれが後に労働契約と評価されるリスクがないか入念にチェックする必要があります。
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