社員が業務やそれに付随する行為を行うに際して会社や第三者に損害を与えた場合、会社は当該社員に対し損害の賠償を請求することができるのでしょうか。
この点については、社員の当該行為が不法行為(民法第709条)の要件を満たす場合は、会社はその社員に対して損害の賠償を請求することが可能であると考えられています。
もっとも、一般的に資力の乏しい社員にとって損害賠償は過酷なものであることから、過去の裁判例においては労働者たる社員の責任を制限する法理を発展させてきました。
裁判所は「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」のみ、社員に対し損害の賠償をすることができると判断しています。
そして、信義則上相当か否かの判断については、①労働者の帰責性(故意・過失の有無・程度)、②労働者の地位・職務内容・労働条件、③損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故防止・リスク分散の有無等)の各要素が基準となるとされています。
過去の裁判例においては、社員に業務遂行上の注意義務違反はあるものの重大な過失までは認められないケースでは、会社によるリスク管理の不十分さ等を考慮して、会社から社員に対する請求を認めませんでした。また、重大な過失が認められるケースであっても、社員側の事情や会社側の非を考慮して、社員の責任を軽減しています。
以上からすると、背任や横領などの悪質な不正行為が認められる場合は別として、一般的に会社から社員に対する損害賠償の請求は制限されることが多く、会社にとっては酷な結果となっている場合も散見されます。