団体交渉における資料の提示

 団体交渉においては、労働組合からの要求を使用者が飲まなければならないような義務はありませんが、使用者は、労働組合が使用者の主張を理解、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければなりません。労働組合の要求に対して、拒否するに際しても、一定の論拠を示すことが求められています。

 しかしながら、使用者における経営資料は、一般に公開されているものを除き、社外秘であり、かつ社外の人間を含む社外労組への開示はためらわれることが多いかと思われます。

 

 先に使用者が労働組合の要求を拒否するに際しても一定の論拠が必要と記載しましたが、この一定の論拠と資料の提示は必ずしも一致しません。企業が対外的に資料を開示すべき場合というのは、会社法等により、一定の利害関係人に対して行われるものであり、法律上の根拠なく認められるものではないからです。

 

 そこで、団体交渉における資料の提示については、①そもそも資料の提示が必要か、②必要としても、程度の資料の提示が必要かという点を考える必要があります。

 

 まず、①そもそも資料の提示が必要か、という問題については、労働組合の要求内容を検討する必要があります。労働組合の要求内容が、相当具体的で、これを議論するために資料の提示が不可欠である場合には、一定の資料の提示が必要と考えられます。たとえば、賞与の査定制度が細かく定まっている企業で、その査定システム自体は開示していない企業について、労働組合からその査定システムが適正に扱われていない可能性を具体的に指摘された場合、使用者としてはそのような査定システムに関する資料を示しながら説明しなければ、誠実に団体交渉を行っているとはいえない可能性があります。

 他方で、労働組合の要求が何ら具体的なものではなく、たんに資料の提示を求めてきているだけの場合には、資料の提示をする義務はありません。もちろん、提示できない理由は述べる必要があるでしょうが、「そのような資料は社外秘である」で足りるでしょう。たとえば、賞与(一時金)の交渉において、「一時金交渉なのだから、決算書を提示するのは当たり前」のような主張が労働組合からなされることがありますが、当たり前ではありません。あくまでも、労働組合の一時金に関する要求内容に照らして、決算書が必要不可欠であれば提示すべきなのであって、使用者としては、要求に対する説明に必要な範囲で提示すべき資料を検討すれば足ります。そのうえで、決算書の内容全てが一時金交渉において必要不可欠とされる場合はむしろ稀であって、当期の売上や利益などについて一定の説明をすれば足りることが多いかと思われます。

 

 次に、資料の提示をすべき場合であっても、②どの程度必要か、という問題があります。これは、先にも述べたように、要求内容に照らして必要不可欠か、が問題ですが、当該資料の使用者にとっての秘匿性の高さも問題となってきます。また、資料の「提示」といっても、その資料の写しなどを労働組合に交付すべきかどうかも問題です。その場で示して説明することと、交付することの間には、その資料の秘匿性の高さとの関係で大きな違いがあることが多いからです。

 これらの問題は、ケースバイケースの対応となってきますので、弁護士とご相談のうえ、判断していくことをお勧めいたします。