代休をあげたのに、割増賃金!?

<経営者からのご質問>

 

当社には、就業規則上、日曜日を休日にしていますが、去る日曜日が新製品の発売日と重なったため、その日曜日には従業員に出勤してもらいました。従業員の頑張りで新製品の発売は大成功に終わりました。そこで、従業員の頑張りに 応えて、後日、それぞれ好きな日にちを選んでもらって、日曜日に代わる休みを取ってもらいました。すると、一人の従業員から日曜日の出勤は、日曜出勤だから割増手当を支払ってくれと申し出がありました。従業員に選んでもらって、出勤した日曜日の代わりの休みを取らせた以上、割増賃金の支払いなど必要ありませんよね?

 

<当事務所の回答>

 

御社では、就業規則において日曜日が休日と定められていますので、本来の休日である日曜日から休日の振替が適法になされない限り、休日出勤をさせた場合には、割増賃金を支払う必要があります。休日の振替が適法と認められるには、種々の要件がありますが(解説で詳述します)、休日の振替は事前に行われなければなりません。御社の取られた対応は、いわゆる代休と言われるもので、労働法35条違反を回避することにはなりますが、休日の振替を適法とするものではありません。
したがって、この度の御社の対応では、割増賃金を支払わなければなりません。

 

<解説>

 

1 法定休日(労基法35条)
(1) 労働基準法35条は、第1項「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」、第2項「前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない」と規定します。つまり、使用者は、毎週1回(週休制。同条1項)あるいは4週間を通じ4日(4週4休制。同条2項)の休日を労働者に付与することを義務付けられており、これを法定休日と言います。
御社では、週休制が導入されていますので、労基法上、毎週1回、つまり、1週間毎にそれぞれ1回の休日を与えなければならないことになります。
(2) 休日の特定
法令上、休日を特定することまでは求められていません(労基法35条、同89条1号参照)。したがって、あらかじめ特定の日を休日とは定めず、その都度前日までに休日を指定しても適法ということになります。
もっとも、御社でも就業規則で日曜日を休日と定めているとおり、多くの会社では、就業規則等で特定の日を休日と定めています。このように、就業規則等で特定の日を休日と定めた場合には、その特定された日が休日であることは労働契約の内容となります(就業規則につき労働契約法7、10条参照)。その結果、使用者は、労働者に対し、就業規則等で特定された日に休日を与える労働契約上の義務を負うことになります。
御社では、就業規則において、日曜日を休日と定めていますので、日曜日に休日を与えなければなりません。したがって、日曜日に出勤をさせた場合には、仮に後日代わりの休日(代休)を取らせたとしても、日曜日の就業は休日労働になってしまい、休日労働に関する三六協定や割増賃金の支払い等が必要となります。

 

2 休日の振替

もっとも、休日の振替が認められた場合には、日曜日の休日が別の日に振り替えられ、本来休日であった日曜日は休日ではなくなるため、割増賃金の支払い等の必要は無くなります。休日の振替の要件は以下のとおりです。
(1) 就業規則等の定め
就業規則等によって、特定された休日は、労働契約の内容となるので、使用者の一方的な行為では変更できません。そのため、労働契約上の根拠が必要です。この労働法上の根拠については、労働協約や就業規則のほか、個別的同意でもよいとされています。
就業規則等の定めについては、「休日を振り替えることができる」といった程度の規定で足りるとされます。
(2) あらかじめの振替
裁判例は、「別に休日の振替を必要とする場合に休日を振り替えることができる旨の就業規則等を設け、これによって休日を振り替える前にあらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替えた場合には、当該休日は労働日となる」とし(東京地判H9.8.1・判タ957号196頁)、行政解釈に倣った判示をしています(S23.4.19基収1397号、S63.3.14基発150号)。
このように、就業規則の定めにしたがって、あらかじめ振替日を特定する必要があります。
(3) 労基法35条に違反しないこと
労基法35条に違反しないことも当然に必要になります。週休制をとり一週間の起算日を定めていない場合には、歴週(日曜日から土曜日まで)が一週間の一単位となりますので、御社のように週休制で日曜日を休日と定めている場合、労働日とさせる日曜日から次の土曜日までの間に休日を振り替える必要があります。
(4) 労働時間規制に違反しないこと
また、その他の労働時間規制に違反することもできません。例えば、休日を振り替えたことで法定労働時間を超えてしまう場合には、時間外労働の要件を満たす必要があります。

 

<注意すべき点>

 

御社の対応のように、休日の振替と似て非なる制度として代休があります。代休とは、使用者による労働者に対する労働日における労働義務の免除と解されています。したがって、代休には、休日振替のような法的効果はありません。よって、休日労働の代償として代休を付与したとしても、既に行われた休日労働について、三六協定がなければそもそも休日労働をさせたこと自体が違法となりますし、労基法37条に基づく割増賃金の支払義務を負うことになってしまいます。
休日の振替と代休は、同じ代わりの休みでも法的効果は全く異なります。単なる「休ませ損」とならないよう休みの意味をきちんと把握されることが重要です。